社会不適合者の私。
私にかかれば、まっすぐな道路も歪んで見える。いつからだろう。こんなに歪んでしまったのは。
道路だけではない。それはほかにもある。私は何もかもが人ではなくなっている。そんなふうに言うと異世界を生きているのか? となるかもしれない。しかし、ここはあくまでも現世である。
場の空気のよみ方だとか、未来予知だとか、そうした誰もが欲しいものは学校では得られない。今日も私の周りには人が集まる。だが、信用されているわけではない。
人は愚かだ。都合のいいときだけ、私を頼る。そして用事がすんだら、ポイッだ。しかし、それが私の存在価値となっていた。誰かの記憶にある限り、私の存在が消えることはないのだ。
「ただ、私は利用されるだけ。私の話はきいてくれない。私はモノなのだ」無意識のうちにつぶやく。
「ねえ、誰か私を見て」そう願う私の横に、彼女はいた。
彼女は笑顔だった。その空気にほっとする私。たとえ、まわりが暗い顔をしたとしても。その中で、一人でもあなたに笑顔を向ける人がいるなら。
「全部抱きしめて」私はつぶやく。そこで一人で背負い込んではダメだ。そこで未来はなくなる。
「私には、未来なんてない」
そう聞くと、彼女は泣きだした。
「はて?」
「私も……だよ」
そこで、私ははっとした。
「自分だけじゃなかったんだ」
私は、私の中だけで生きていたことに初めて気づく。そしてほっとした。
しかし、歪んだ世界はそのままだ。それは私のせいではなかった。そもそもが歪んでいる世界だったのだ。
それから、彼女と私はとても仲良くなった。
だが、苦しい日常が変わったわけではない。
ある日、彼女は私に言う。
「ねえ、人生、何をしても変わらないしさ。そろそろ終わっていい……よね」
彼女の目は真剣だった。すすり泣きながら私に話しかける。「誰も信じることができないの」
「えっ、じゃあ、なぜ私に話すの?」
「あなたなしでは私は生きられないの」
彼女はそんな人間ではないはずだ。
「あなたには、絵に、歌に、たくさんの才能があるじゃない?それで自分には何もないって言えるの?」
私は才能ある彼女が、うらやましい気持ちがあり、自然と語気が強まる。
「私を認められないんだ。見てもらえないんだ」
「見てくれているじゃん。認められてないのは期待されているからじゃん!」
私が言うと、
「それだけでしょ?」と彼女は言う。私はそれ以上、彼女を認める部分が見つけられなかった。
モヤモヤとした気持ちに包まれる、言葉に今にも出そうだ。その表情は崩れていた。
「ねえ、一緒に人生終わろうよ」彼女は言う。
ああ、今ここで私が彼女についていけば、この歪みが当たり前の世界はなくなってしまうのだろうか。
そこが、新たな彼女たちの始まりとなった。
二十一時。素人は今日もこんな時間に路上で音楽家気取りである。客と商人。
「愛してるなんて仮面かぶって、君のためだと微笑むメロディ」商人は歌い続けている。
善ってなんだろう。あんなことなんて無かった。私の前世はからすなのか? 知らない。信じたくない。蹴り上げた汚水も輝いている。こんなものだって、誰かの力で輝いている。
太陽の光が反射しただけなのに、みんなは水を綺麗という。あの時、あの瞬間、今も気持ち悪いほど鮮明に蘇る。
あの日、私は死んだ。
私はそのときの私とは別人。そう思って生きてきた。でも、やっぱり世界は追いかけてくる。終わらせても、終わらせても切り離せない。運命だなんて言葉は大嫌いだけど、もうそれはそうとしか言いようがないものだった。
「みんな笑ってるよ。」
世界はたくさんあるのに、また私はここを選んだ。いや、選ぶしか無かった。最高の笑顔のあなたがいたから。
「そろそろ終わらない?」
──っ。まだ外は暗い。時計を見ると短針は九を指している。そして画面には二十一の数字が写っている。
「またか」
やはり、この世界は私が終わらせないといけない。これは私が始めたことだから。写真の中のあなたはいつも笑っている。そしてそう思う間にも、刻々と明日は迫っている。
「明日なんて来るわけないのに。」
意識が遠くなっていく。今度はみんなみたいに普通に生きられたかな。私は初めて、私のやり方でこの物語を終わらせられた。その達成感に溢れた胸はどこか温かかった。
私はあなたが心から笑った顔を知らない。それ以前に、あなたのことは何も知らなかった。
この世界は、幾つも存在するうちののたった一つの世界なんだって。あなたが教えてくれた。最初はよくわからなかったけど、聞いてるうちになんだか引き込まれていった気がする。
あなたは楽しそうに話していたね。私も楽しかった。そこからだった。全てのことが嘘に感じる。得意だった絵も全部。
そのときの私たちは、周りが表面だけを見て文句を言ってきているような、認められていないような、感覚だった。そしてそれは、その世界そのものを歪ませていたのだ。
「私も死ぬはずだった。あなたと一緒に」
そして、目が覚めたら世界は変わっていた。みんな、本当は全部認めてくれていたのだ。気づかなかった私たちがおかしかったくらいに。
それにやっと気づいた私。
そこからはみんなの普通と言われる世界に、戻れた気がした。私と彼女は、確かに二人で一つだった。