森のこんびり

赤穂

 

 最悪。
 その一言が、私の胸を占めていた。

 

 

 始まりは、お盆も過ぎてしまった夏の終わりかけに、私がどこかへ行きたいとおねだりしたことだった。
 夏休みの途中にある登校日。私の通う小学校の三年生教室では、みんながみんな、夏休みはどこどこへ行ったということばかり話していた。いつもよく一緒にいる女の子グループの中でも、ネズミで有名なレジャーランドに行ったとか、誰もが名前を知っている日本一の山に登ったとか、きらきらとした夏休みらしい話題ばかり。

 

 でも、私は何も言えなくて、ずっと話を聞いている側だ。生まれたばかりの弟がいるから遠くへお出かけできないとわかっていても、やっぱり羨ましく感じてしまう。

 

 我慢しなきゃいけない。
 でも、やっぱり我慢したくない。

 

 二つの気持ちがぐるぐると回りあって、一人になりたい気分になりながら家に帰った。そしたら、お母さんが質問責めにしてきたのだ。久しぶりの学校はどうだったとか、みんなの様子は変わりなかったかとか、焼けたんじゃないって言われなかったとか、みんなはどこかに行ってたか、とか。

 それにいらいらしてしまって、つい叫んだ。

 

「私もどこか旅行に行きたい」

 

 お母さんは困った顔をして、夜にはお父さんに相談していた。
 すぐに、『弟のこともあるし、やっぱり旅行なんていかなくていい。弟が大きくなるまで我慢できるよ』って言えればよかったけど、心の中で、旅行の話で盛り上がるみんなのことを思い出してしまって、うまく口にすることはできなかった。
 けれど、お母さんの一言で私の中の黒いもやもやは吹き飛んだ。

 

「それなら、お母さんの実家に行くのはどうかしら。ちょっと遠いけど、そこなら、おばあちゃんたちに手伝ってもらえるからみんなで思いっきり遊べるわ」

 

 お母さんの実家に旅行する計画はどんどん進んでいって、私の心もどんどん楽しくなっていって、夏休みの日記にやっといつもと違うことが書けるとすっごく喜んだ。
 でも、私はまだ九歳だけど知っていた。
 自分のわがままを通して叶った出来事は、いつもいつも、悪いことと一緒にやってくるということを。

 

 

 

「だれかー! だ、だれか、いませんかー!」

 

 思いっきり叫んでも、周りから聞こえてくるのは何百匹いるんだって言いたくなるくらいうるさいセミの声だけ。
 久しぶりにおばあちゃんの家に来て、お母さんと一緒に遊べたのはとてもうれしかった。いつも弟にかかりきりだから、とってもとっても嬉しかった。

 

 最悪が心の中に出てきたのは、探検だと調子に乗って山の中に入って行ってから。歩いても歩いても出口が見えず、叫んでも叫んでも返事のないこの状況は、たぶん『そうなん』というやつだ。漢字は書けないけれど、一人だけぽつんと山の中に迷い込んで出られない状況をそう呼ぶことは知っている。
 泣きたくなるけれど、歯を食いしばってがんばりながら出口を探す。携帯電話があるから時間は確認できるけれど、一つもアンテナの立っていない画面を見るとつらくなるからポケットに入れたままだ。でも、もう一時間以上経っていることはなんとなくわかる。お昼を食べたはずなのに、少しずつおなかがすいてきていた。

 

「……」

 

 がまん。がまん。がまん。
 心の中で呟きながら歩くけれど、きっと、涙がこぼれてしまわないようにちょっと上ばかり向いていたのがいけなかった。

 木の根に足を取られてつまづき、その勢いのままなだらかだけど木だらけの場所を転がっていってしまうなんて、最悪だ。

 

 

 

 目が覚めたとき、私はバドミントンができそうなくらい開けた場所にいた。体はどろだらけで、お気に入りの白いワンピースは真っ白じゃなくなっていた。体のあちこちがいたいし、ポケットに入れたはずの携帯電話もない。空を見上げると赤色になってきているし、何も考えずに泣き出したくなった。

 けれど、空から視線を下げたときに気がついた。なんだか、不自然に葉っぱが重なり合っているところがある。うまく言えないけれど、誰かがはっぱをたくさん積み重ねてアーチにして、入り口みたいにしている。もっとよく見ると、はっぱでできた入り口のそばには、木の板が看板みたいに置いてある。

 そして、そこには幼稚園の子が書いたみたいな下手な字で、

 

『こんびり』

 

 と、書かれていた。

 

「だ、誰かの秘密基地とかかな」

 

 なんだかとても気になって、私ははっぱの入り口に近づく。好奇心につられてその入り口を通ってみると、その中にはたぬきがいた。

 

「……えっ?」

 

 二本足で立ち、頭には葉っぱで作った帽子をのっけた、かわいらしいたぬきが。

 

「おや、人間のおきゃくさまなんて珍しいです。ようこそいらっしゃいませです。ぼくが、この森の『こんびり』の、たぬきの店長です」

 

 驚いて、声も出なかった。たぬきが立ってるのも不思議だし、人の言葉をしゃべるのも不思議だし、夢を見てるんじゃないかと思って自分のほほをつねった。すると、確かに痛い感じがある。これは夢なんかじゃない。

 

「おきゃくさま? えっと、おきゃくさま?」

 

 幼い男の子みたく舌っ足らずなその声は、確かにたぬきの口から聞こえてくる。これが夢じゃないのなら、いったい私はなんの世界に迷い込んじゃったんだろう。

 

「……ほ、ほんもの、なの……」

 

 目の前の出来事を受け止めきれず、私は手をのばしてたぬき店長のおなかを触る。茶色の毛がふわふわしてて、柔らかくて、ちょっとあたたかい。機械とか、そういうのじゃなかった。

 

「まず、偽物のたぬきがわからないです。ところで、おきゃくさまは何をおあいもろめに……こほん。お何をお買い求めになられているのです」
「その前に、あなたなんなの。たぬきがしゃべるなんておかしいよ」
「同じように、人間のおきゃくさまがここにいることもおかしいのです。でも、『こんびり』に来てくれたからには誰だっておきゃくさま。店長であるぼくはおもてなしをするのです」

 

 そう言うと、たぬき店長は私に背を向けて準備を始めた。
 私は、そこでようやっと自分がいる場所を見渡した。細くて葉の少ない木がにょきにょきと伸び、絡み合って壁と天井を作り、まるいドームみたいになっている。はっぱをつけて壁にしているせいで、遠くから見るとはっぱがたくさん重なり合ったおかしな場所だと見えたんだと思う。でも、中は全然暗くなくて、天井のところのはっぱを少なくしているおかげで日差しが透けて明るくなっている。

 

 ドームの奥にはたくさんのものが置かれていた。お皿代わりのはっぱの上に、真っ赤な木の実とか、名前のよくわからない果実とか、川魚とか、はちみつとか――ちょっとだけ、おなかがなりそうになってしまう。

 

「……あなた、ここでお店をやってるの?」
「はいです。人間の世界には、こんびりというたくさんの種類の食べ物を置いた場所があると聞いたので、こうしてお店をしているです」

 

 なんだか、おとぎ話みたいだ。こうしてたぬきの店長がいるくらいだから、もう夢だと思い込んだほうがいいかもしれない。

 

「それ、全部あなた一人で集めたの?」
「いえいえ、それは無理なのです。木の実くらいならともかく、ぼくには魚なんて取れないし、はちみつは手が小さくてたくさん集めるのに時間がかかってしまうです」
「じゃあ……」

 

 と、尋ねようとしたけれど、背中にぽんっ、という衝撃がして振り返る。
何がぶつかったのかと思って振り向くと、そこには大きくて真っ黒なクマがいた。

 

「くっ、クマっ!?」
「ひぃっ、人間っ! う、撃たれる!?」

 

 私が悲鳴をあげたら、クマは私よりもっと大きな声をあげて後ずさった。

 

「た、たたたぬき店長! なんでここに人間がっ」
「落ち着いてください、くま店員。この子はおとなしそうですし、こどもです。怖がる必要はないです」

 

 怯えた様子のくまのことを店員と呼ぶたぬき店長は、くまが手に持っているものをやんわりと取る。それは、木を彫って作ったコップだった。

 

「ふむふむ。よくできていますね。くま店員は、そろそろバイトリーダーに昇格していいかもしれません」
「そ、それは嬉しいけど……ほ、ほんとに心配しなくていいの? あ、あと、追加のはちみつも持ってきたけど……」
「ありがとうございます。さすがはくま店員」

 

 二人のやり取りをみて、やっぱりこれは夢なんじゃないかという気持ちが強くなってきた。

 

「ねえねえ、くまの店員さん。体、ちょっとだけ触っていい?」
「うひぃっ! こ、この子、急に元気になった……」

 

 私のことを怖がりながらも、くま店員は私に体を寄せてくれた。お父さんの二倍くらいある大きな体はたぬき店長とおなじくらいふわふわとしている。大型デパートでたまに見る、巨大くまのぬいぐるみみたいだ。

 

「おいこらっ、くまっ! 入り口でつっかえてんじゃねぇやいっ。このきつね様が通れねぇだろうがい」

 

 くま店員の後ろから怒った感じの声がして、入り口の隙間から食パンの耳みたいな色が見えた。強引に体を押し込み、くま店員とはっぱの入り口の間を通って中に入ってきたのははっぱの帽子をかぶったきつねだ。

 

「へへへっ、今日もお疲れ様ですたぬき店長っ。肩とかおもみしましょうか」
「いえ、いいのです。きつね店員。それより、頼んだものは持ってきてくれましたか」
「もちろんでさぁっ。頼まれたとおり、きれいな湧き水を持ってきましたぜい。はっぱに包んで縛ってあるんで、ついうっかり強く握りしめないようにお気を付けください」

 

 くま店員に対しては強気だったのに、たぬき店長に対してはへこへこしているきつねの店員。怒った感じの声がクラスの男子に似ているきつねは、私のことをじっと見ると目を細めた。

 

「なんでい、おめぇ新しく雇われた新入りかっ? 言っとくけど、この中で一番長くたぬき店長に仕えてるのはこのきつね様だかんなっ。きっちりおぼとけよっ」

 

 ちょっと嫌な感じもするけれど、きつね店員が持ってきた葉っぱのかごをみて驚いた。動物なのに、中に水を入れてもこぼれないようにはっぱと茎できれいにかごを編み上げて水を持ってきたんだ。

 

「すごいね、これ。本当にいろんなものがあって、水までそろってるなんて」
「ぼくの『こんびり』では、今からおきゃくさんが来るまでは休憩たいむなのです。お店にある商品をちょっとだけ食べながら、ゆっくりお話しするのが日課なのです」
「お、おきゃくさん、ほんとたまにしか来ないけどね……。いっ、痛いよきつね店員。けらないでっ」

 

 なんだか、だんだんと楽しくなってきた。動物たちがこうして食べ物を持ち寄って、店長や店員をやりながらお話をしているなんて昔話みたいだ。

 

「せっかくなので、きみも混ざるといいです。おきゃくさんではないようですが、この『こんびり』のふいんきを知り、いずれバイトになってくれればうれしいです」
「い、いいの?」
「ええ。おきゃくさんが来るまではひまなので」

 

 それからしばらくの間、私はたぬき店長、くま店員、きつね店員にまじってお話をした。
森にすむ動物たちの話を直接聞くのはとっても面白くて、ふんふんと感心したり、いいなぁと羨ましがったり、忙しいくらいに楽しかった。
 あと、もう一つ。きつね店員が「いつも同じものばっか食べてるから飽きてきた」と言ったとき、ぱんっと思い付きをした私はブレンドジュースの提案をした。

 

「ぶれんど? じゅーす?」

 

 首をかしげる動物たちの前で、木彫りのコップに果実をしぼった汁とはちみつ、水、小さくて赤い木の実をいれた。テレビでやっていたのは、たしかこんな感じだったように思う。
 最後に、くま店員にぱぱっと作ってもらったスプーンでよくかき混ぜ、三人に渡すととても喜んでくれた。
 私も、おなかがすいていたところに飲むブレンドジュースや木の実はとってもおいしくて、最悪なんて言葉をさっぱり忘れてたくさんおしゃべりをした。

 

 その途中で、ふと気がつく。
 このお店は、きっと『こんびり』じゃなくて『コンビニ』だ。たぬき店長はときどき言葉の言い方を間違えているから、勘違いして『こんびり』と言っているんだと思う。他にも気が付いたことがあって、こうして話しているのは、それこそコンビニに集まってお話をしている人間みたいだった。私も、夏休みの間にアイスを買いにコンビニに行ったら、クラスメイトの子がいて、ついつい話し込んじゃってお母さんに怒られるなんてことがあった。
 そのことを話すと、くま店員はうんうんと頷きながら私の頭をなでてくれた。


「君は、友達とお話するのが大好きな子なんだね。僕も同じだから、その気持ちはとってもよくわかるよ」

 

 くま店員に言われて思い出したのは、登校日に心の中に感じた黒いもやもやのこと。あんなにいらいらしてしまったのは、私のおうちが旅行にいけていないせいじゃなくて、旅行について話すみんなにうまく混ざれなかったから。本当は、旅行に行きたいんじゃなくてみんなとお話したくて、それができなかったからいらいらを抱えていたんだ。

 そのことに気づくと、なんだかすぐに帰ってお母さんにあやまりたくなった。私のわがままでいきなり叫んで、困らせて、こうして旅行を計画してくれたお母さんには、いっぱい謝らなきゃいけない。

 

 でも、どうやって帰るか考え始めると気分が落ち込んでいく。周りのみんなも心配してくれるけれど、もうすっごく暗くなってるし、帰り道はわからないし、どうしようもなかった。

 

「あ」
「どうしたくま店員っ。も、もしかしてなんかいい方法とか思いついたのかっ」
「そ、そうじゃなくて、そういえばうさぎちゃんがバイトの面接に『こんびり』に行きたいって言ってたのを思い出して……」
「なんで今なんだよっ! この子がうちに帰れる方法を思いついたのかと思うだろうがこんにゃろうっ!」

 

 きつね店員が叫んだそのあと、入り口の端からちらっと白い耳が出たのが見えた。

 

「……もしかして、くま店員が言ってたうさぎちゃん?」

 

 声をかけると、可愛らしいうさぎが『こんびり』の中に入ってくる。くま店員とどこか似た雰囲気で、ちょっと怯えた感じのあるうさぎだ。空気を察するのが得意なのか、私たちの表情を見て長い耳はぺたんと垂れた。

 

「くまくん、何かあったの? あたし、みんなが悲しんでる気分っていうのが伝わってきて、元気なくなっちゃう……」
「それが、この人間の子を家に帰す方法がわからなくて。ぼくらは人間のいるところにはあんまり近づかないし……。うさぎちゃん、なにかわかる? うさぎちゃんは頭がいいし、人間の世界のことをよく知ってるから何か思いつかないかな」

 

 十秒くらいみんなでうんうん唸っていると、突然、うさぎちゃんがピンと耳を立てた。

 

「だったら、これを使えばいいんじゃないかしら」

 

 そう言って、うさぎちゃんが私に見せたのはどこかで落としたはずの携帯電話。

 

「山の中で捨てられてたのを拾ったんだけど、これを使えば調べ物をしたり遠くにいる人とお話したりできるの。あなた、お母さんの電話番号とか知らな――きゃっ」

 

 私が、気がつけばうさぎちゃんのことをぎゅっと抱きしめていた。

 

「ありがとう、うさぎちゃん。それ、私の携帯電話だよ。見つけてくれてたんだねっ!」
「そ、そうなのっ? だったら、これで無事に帰ることができるのね」
「あっ……でも、電波が届いてないから、電話できないんだった……」

 

 せっかくどうにかなるかと思ったのに、やっぱりどうにもならないことがわかって落ち込んでしまう。携帯電話が見つかっても、電話ができないんじゃ意味がなかった。

 

「ねえねえ、落ち込まないで。こういうときに使う言葉らしいんだけど、人間には七転び八起きっていうことわざがあるんでしょう? さっき調べたわ。あなたのいう『でんぱ』っていうのはよくわからないけれど、あきらめずに頑張ることってすごく大事なのよ」

「励ましてくれるんだね……。って、え? さっき調べたって、ネットにつながったってこと?」

 

 きょとんとした気持ちで尋ねると、うさぎちゃんはただでさえ丸い目をもっとまん丸にして答えた。

 

「ネット? どうして網の話になるのか、うさぎの私にはわからないわ……」

 

 携帯電話を確認してみると、確かにアンテナが立っている。しかも、一本じゃなくて二本も。

 

「もしかして、うまく帰れそうなのです? うさぎちゃんが持ってきてくれた『けーたいでんわ』は、使えそうなのです?」
「うん。みんな、心配してくれてありがとう。この場所からなら電話ができるから、お母さんに電話して、おばあちゃんから家に帰る道を教えてもらえるよ!」

 

 私が今いる山は、おばあちゃんのお家が所有する山だと言っていた。小さい頃はずっと野山を駆けまわっていろんな山の遊びをしていたとも聞いたことがあるので、電話さえつながればきっとどうにかなるはずだ。

 

『森のこんびり』を出てさっそくお母さんに電話をかける。携帯電話は、ちゃんとつながってくれた。
 携帯電話が震えているその途中、私は振り返り、みんなのことを見る。そして、小さく手を振った。

 

「私と、たくさんお話してくれてありがとう。みんな、元気でね」

 

 たぬき店長たちと別れ、私は携帯電話から聞こえるおばあちゃんの声の通りに森を歩いた。すると、すぐにおばあちゃんの家につながる道に出て、無事に帰ることができた。
 勝手に『そうなん』して遅くまで連絡を取れなかったから叱られると思ったのに、お母さんも、おばあちゃんも、強く怒るなんてことはしてこなかった。

 

 なんでなんだろうと考えていると、森で迷い始めた時間からちょっとしか経っていないことに気づいた。あんなに長い出来事だったのに、私が森で迷っていたのは五分間のことだったらしい。

 

 不思議なことは他にもある。口にはちみつの甘さが少しだけ残っていたのに、ワンピースについたどろは綺麗に消えていた。
 おかしなことだらけでも、ちゃんとおばあちゃんの家に戻れてよかった。その後は、はぐれてしまわないように気をつけてお母さんやお父さんとたくさん遊んだ。おばあちゃんの家への旅行は、とっても楽しい思い出になった。

 

「ただいまー……」

 

 旅行が終わり、家へと帰ってきたとき。玄関に辿り着いて出た声は流石に元気がなかった。山の中で遊びまわり、はしゃぎ倒して疲れてしまった。
 夏休みの終わりかけに、おばあちゃんの山で起きた不思議な出来事。もりの『こんびり』は、本当に夢だったのだろうか。お母さんやおばあちゃんに話してもきっと信じてもらえないだろうから秘密にしているけれど、友達に、私が考えたおとぎ話として話してみたい気持ちがある。誰かに話せば、
たぬき店長たちとの出会いが夢なんかじゃない素敵な思い出になるような気がするのだ。

 

 でも、わざわざ友達の家に遊びに行って話をするのはちょっと恥ずかしい。
 ――だから明日、コンビニに行こう。偶然誰かに会えたなら、たまたま思いついた風を装って夢みたいなお話を聞いてもらおう。

 コンビニはいろんな人が気軽に集まる場所、私たちのおしゃべりの場になってくれるところだから。