バケツ・ノート

短編/衍字

 

「っと、よし。準備物は大体揃ったかな。あーあと、脚立がいるか。よっこらせっと。

 ……んー何か無言で黙々と作業っていうのも嫌だからー急遽、一人ラジオでもしようと思いまーす。えーとね、ポ、ポ、ポ、ポ―ン。

 午前、えー五時十四分丁度になりました。キーピング・レディオーのお時間です。今宵も、いや今朝か。DJ さっちんがお届けしていくよー。いやーだいぶ暖かくなってきたねー。こんな時間でもうっすら光がさしてきてるよ。あ、今は自室からお届けしているんだけどね。

 皆はまだ寝てると思うんだけど、私はこうやって早起きしてせかせか働いているんだぜ。何の作業かは出来上がってからのお楽しみってことで。まあ想像しながら、聞いてって。

 

 えーっと、長さはこんなもんかな。さて、何話そう。そだ、最近さっちんね、一冊のノートを買ったんだよね、オレンジのやつ。そんで、みんなはバケツリストって知ってるかな? バケツリストってのは『死ぬまでにやりたいこと』をまとめたリストことらしくて、さっちんもあんまり詳しくないんだけどアメリカかな? ではよく知られているみたいなんだよね。よし、きゃーたつ、脚立。

 それで、そのバケツリストを書くためのノートをバケツノートっていうらしくて、オシャレじゃない? もう一目ぼれで買ったんだよ、オレンジのバケツノート。

 まあ別に目的があって買ったわけでもないんだけど、わたしゃもこんな年だからね。人生何があるか分からないんだよ。皆だって明日どうなるか分かんないんだからー。

 ということで色々書き込もうと思ったわけなんですけども、皆なら何書く? 死ぬまでにやりたいこと。私はねー、全っ然思いつかなかった。いや、いざ書くとなると思いつかないもんなんだよ。うー脚立って意外と高いのな。

 そりゃ私も年頃の乙女なわけで、やりたいことならたくさんあるよ。新作飲みたいなーとか、友達と春物コーデしたいなとか、お金欲しいとか、世界一周したいとか、お金欲しいとか、スキューバーダイビングしたいとか、お金欲しいとかね! だけどノートに態々書くようなことじゃあないのよ。

 書くことじゃないというか、死ぬまでにやりたいことか? それって感じ。みんなも考えてみてよ、新作。

 いや確かに飲みたいけど、最後の晩餐それか? ってならない? 世界旅行だって、そりゃしたいけど死ぬまでにどうしてもしたいことってわけでもないし。スキューバーダイビングだって生きてきた意味でもなければ、未練になるようなものでもないわけよ。

 やっぱり百八の煩悩なんかでは〆のデザートに適さないってことなのかもね。

 

 どうしてもしたいこと。皆はどう? 話聞いててなんか思いついた?

うーん……。漠然としたいなってことはやっぱりあるけど、最後に相応しいモノってなかなかないんだなーってさっちんは思ったわけでよっと、ぎゅ。

本当の意味で『人の生きる目的』なんてたいそうな代物はないってことなんですよ。

 でもさ、せっかくノート買ったんだよ? このオシャレなノートを。リスナーの皆にお見せできないのが悔やまれるぜー。まあ、だから使わないなんて勿体ないわけで、私は一つ、これだ! って思うのを書いたんだよ。これだけはやっておかないとなって思うやつをね。

 んで、それを実行するためにさっちんはこうして朝早くから準備しているということなんだよ。まーもーこんな年だからねー。やりたいことはやりたい時にやらないと。

 人生なんてあっという間に過ぎるんだから。何かを始めるのに早いことなんてないんだよ。ふう、よし長さぴったりだね。

 

 じゃあそろそろお別れの時間が近づいて参りました。皆は楽しんでくれたかな。さっちんは朝から色々と疲れたぞ、フフ。

 さて、次さっちんと会う時までに皆も死ぬまでにやりたいこと、バケツリストを作っておくこと。オッケー?

それでは、それではキーピング・レッディオー。

 リスナーのお相手はーDJさっちんこと、泊時さつきでした。じゃーねー」 ガコンッ