ま✕✕の✕✕

衍字

 

 一 ま○○の○○

 

 僕の住む街には小さな山がある。いや、正確な所本当に山なのかは僕にも分からない。山? 丘? とりあえず小高い何かが僕の住む街にはあるのだ。

自然で形成されている容姿をしているのだから山と呼んでも間違いとは言われないだろうけど、なぜ正確に断言できないのか。それはそこを通っている道がコンクリートで舗装されているという自然には似つかわしくない特徴があるからだ! 道が、道だけがコンクリというなんとも言いがたい物柄のせいで、そいつを「山」と呼ぶことにどうも違和感を覚えてならない。そこで何もすることがない土曜の昼下がり、僕はその何かを初めて登ることにした。

天気は晴れ。服装はポロシャツ。左の胸ポケットから手と顔を覗かせている猫がこの服のお気に入りポイントである。そこまで高くないところなので「かなりの軽装」という舐めプをそれにかましつつ、歩きやすい黒道を頭の中で奏でている音楽に合わせ登っていく。見えている景色、天然物。歩く場所だけ人工物。そんなコントラストを体感しながらおそらく十分、何の苦もなく頂上についた。そこには見晴らしのいい光景も屋根のついた休憩スペースなんて物もありはしなかった。背後に伸びる登ってきたコンクリの道と、前方に伸びるこれから降りていくであろうコンクリの道があるだけ。ますます謎が深まる場所だ。休日を返上してまでやってきたのだから何かの見返りを期待したが、特に何もなさそうな結果に僕は帰るための足を伸ばした。とその時、視界の端に映る小さな看板を見つけた。近づいて行くとやはりここの名前のような物が書かれているようだ。やっとこいつの正体が分かる。僕は本来なら本当にどうでもいいであろうこれの正体に何故か胸躍らせながら、猫踊らせながら名前を見た。看板には小さい文字でこう書かれていた。

『宮野坂』

「まさかの――」

 

 二 ま##の##

 

 私最近この街に引っ越して来たんだけど、今日なんと私の大好きな「アレ」があるんだってさ。お母さんが言ってた。なんかご近所のママ知り合いが噂してたんだって。「今年はするらしいぞ」って。「三年ぶりらしいぞ」って。だからもう私ワクワクして夕方近くからその場所に行ってみたの。でもやっぱり夕方と言っても夏だね、暑くて干からびそうだったー。私って普段パソコン、ネット三昧だから外中々出なくてね。だから日光にホント弱いの。耐性ゼロ。もう現代が生んだドラキュラだよね。私はもう人間をやめたぞーって(笑)。でも頑張って歩いたなー。そんぐらい好きなの。雰囲気から何からね。だけど到着したそこに私が夢見てた華々しさは存在しなかった。もう真逆。「華々しさって知ってるー?」ってレベル。何か大っきな扉の奥でおじさんたちの野太い声が寂しそうに聞こえてくるの。呆然としたね。段々辺りが暗―くなっていくまで私そこに立ち尽くしてたんだもん。

 そんでそのまましばらく動けないでいると、中での作業は終わったのかおじさんたちが扉開けて外にぞろぞろ出てきたの。そしたらそしたで真ん中の大きく空いたスペースに集まって松明とか薪とかで火を焼べだしたのね。たちまち大きく燃え上がった炎をみんなで囲んで、またなんか日本語なのか何なのか分からない意味不明な言語をごにょごにょ言い始めてさ。他の人の影や灯りはないし、意味不明さなんてものは当然で、もう今更なんだけど、私の知ってるやつじゃないなって。あーあ、騙されたなあって。そんな気分だったよ。

日本一、ロマンのないキャンプファイヤーは私をバカにするように一層その姿を大きくしてた。せっかく綺麗におめかししてきたのに! 暑い中、歩きにくさも我慢して、楽しみにしてやってきたのに! こんなことならネットしておくんだった! 自部屋という棺の中に引きこもっておくんだったー!今も尚ごにょごにょ言ってるおじさんたちの声を聞きながら、浴衣姿の私は騙された怒りと恥ずかしさで顔から火が出る思いだった。

 

 三 ま??の??

 

「いや、こ!!」

 初対面の相手に失礼極まりない言動が口をついて出てしまった。この口には後からきつく叱っておく。

 大学というのは実に幅広い人がいるんだなーと改めて思う。そのため講義で知り合う人もそのほとんどが初めましての方々だ。現に今もこうやって同じグループになった人との顔合わせの時間、で真っ先に出てくる感想ってのがさっきのはやはりあまりにも常識のなってない口だわな。全く持ち主はどんな教育をしているんだ。ゴホンと先ほどの無礼千万を咳払いでかき消し、誤魔化しつつ自分へのツッコミと言い訳を脳内で繰り返した。幸い彼は俺の発言の意味を深く捉えてない、若しくは気づいていない様子なのでこのまま流せそうだということに安心した。もしも不快な思いを与えてしまっていたらこれから「いやこ」というのを口癖にするカルマを背負っていくぐらいの覚悟はあったことはまあ、置いとこうか。

とりあえず、一番気になっている第一印象のことを遠回しにそれとなく聞いてみた。やはりよく外国の方に間違われるそうで、笑いながら外国人間違われ面白エピソードを朗らかに語ってくれた。彼があまりそのことを気にしていないことが何よりの救いだと思ったし、いい人なんだろうなという印象を持った。

そこそこ話したのち、改めてみたがやはり初めの一目で彼が日本人だと見破るにはそれなりの慧眼が必要だろうと先ほどの反省をこれっぽっちも生かさない考えに、お前はこの多様性を謳うご時世に向いてないと今日何度目かの最低自己評価をくだした。まだ海外っぽいという抽象的な表現ならば情状酌量の余地があったかもしれない。しかし俺は初め見たときに具体的な国名を頭に思い浮かべてしまったんだ。行ったことも、見たこともないただのイメージだけでその国が出るなんて、ホントに質が悪いよな! どこにある国なのかも正確に知らねえくせに。そもそも国なのかも怪しい知識だ。ホントなんでパッと出てきたんだろ。悪気はマジで全くないんだけど、今でもピッタリな例えだと思ってしまいます。ホント申し訳ない(笑)

 

 四 ま△△の△△

 

 もう本当に勘弁して欲しい。これで何度目!? そりゃ私だってイメージが大事ってことは分かるよ? だけどにしても手法が同じだし、時代に合ってないと思うんだよね。古い! そう古いんだよ! やり方が。こんなもん使ってるとこなんてもうないよ。というか使ってる使ってない以前にこれ知らないって世代も増えてきてる時代だよ。もう止めようよ。新しい、今時のやつでいいじゃん。え? 古いのが味があるって、だからもう古すぎるの! 味なんてもうないの! 使い古されて、毎回同じワンパターンでカラッカラなの! このやり方ではスルメイカにはなれないの。どんどんと味の落ちるガムなの。そこんとこちゃんと見て味が出るか吟味してみなさいよ。

というか私の身にもなって。毎回、毎回こっから出てきてるじゃん。もう古いとかはこの際、いいよ。いやよくないけどね、よくないけどこの出てくる時に意外と疲れるのが一番の問題なの! というか嫌なの、私は。なんでこんな深いの? なんで本物なの? 偽物でいいじゃん。もっと浅くていいじゃん。なんでそこ拘ってんの? そしてこれってもともと水飲み場か何かだったんでしょ。そう、濡れるの。濡れるし汚れるの。汚れた方がイメージ合うじゃんって本当マジ、お前呪ってやるからな!

もう嫌だー。こんだけ頑張ってんのに周りも冷たいしー。マジ人間の血通ってんのかってやつばっかりだしー。人を呪わば穴二つってのはよく言った物だよ。呪う方も大変なんだから。大変じゃない仕事なんてないんだから。あーもう、はいはい、やりますよ。いいよ、無理に元気づけなくても。もともと元気なんてないし。もう今回で最後だからね? 次からはちゃんと新しい企画というか、設定に替えといてね。と毎度の如く、口酸っぱく言っても直ってないから別に期待もしませんよ。あー最新のシステムになるのはいつのことになるのかねー。私はそろそろ洗濯機から出てくるってのも斬新だと思ったりしてるんだけどね。私の隠れる所はどこまで行っても穴一つだね。

 

 五 ま☆☆の☆☆

 

 僕はとある高校に通っている高校生。クラスの立ち位置で言えばまあ普通かな。無口な方ではあるけれど、話す時は話すからそこまでクールキャラだとは思われてないと思う。ま、周りの評価なんて気にしてないけど。僕はあくまでも中立的な立場として物事を俯瞰して見ているって感じかな。この僕のお気に入りである窓側の席から校庭でやってる他クラスの体育の様子を見たり、こうやって教室のクラスメイトらの様子をみて彼らの時間の使い方を観察したりしているのが、ま、一応の僕の趣味なんだよ。

勉強? 勉強はあまりしないかな。ほら、あんな風に目の色を変えて必死にやったって効率が悪いだけ。ただ疲れを増やしているだけにすぎないんだよ。逆効果とも言ってもいいだろう。だから先ほどの言い方では語弊があったかもね。言い直すよ。無駄な勉強は僕はしないんだよ。そんなことをしてもちっとも楽しくないしね。疲れた後にどれだけ詰め込んでも身につくはずないだろう。嫌いな物を嫌いな時に無理矢理食べてもはき出すだけだし、その後の食欲もなくなる。ね、そういうことなんだよ。そんな簡単なことなんだよ。だから気分が乗ってる時。やる気があるときに自然とペンを持つのが一番有意義なんだよ。僕はいつもこの窓際の席でリフレッシュして授業に臨んでいる。そうすることで勉強というものは捗るようにできているんだよ。あ、チャイムがなったからまた後で話すね。

「席つけー。テスト返すぞー」

 用紙を返された彼らは皆浮かない顔をして席に着いていく。あーあ、だから効率よく勉強するべきなんだよ。え? 僕の点数かい? そんなものを気にするのは三流なんだよ。自分に自信のないからこそ目に見える、形あるものにすがりつくんだ。一流はリザルトを見ない。結果なんてものは努力の過程を大事にしていればいずれ付いてくるのだから。焦っちゃ駄目なんだ。姑息は姑息でしかないのだから。

自分のペースで進めば良いんだよ。

 

僕は今日も窓横の席でそよめく外の木々を眺めていた。