「あーなんて幻想的な木漏れ日」
山道をそれっぽい恰好しながら歩く私は、木々の間から抜ける眩い光に目を奪われていた。
なぜ混じり気のない開けた太陽光はただの光景に見えるのにそこに所々の影が入るだけで、蛇足とも思える黒が入ることで、ただの光よりもより味わい深い姿に見えてしまうのだろう。そんなことを考えながら私はスマートフォンの画角に風景を切り取る。しかしそこに写る、時の止まった景色は今眼前に広がる美しさを何一つとして表現できていなかった。
「え、あれ? なんで?」
今肉眼で見えている「この景色」を誰かと共有したい。記録として残したい。そう思って今度は角度を変えて撮ってみる。
カシャッ。
それでもやはりフィルムを通して見えるモノと水晶体を通して見えるモノとには絶対的な違いがあった。
「ハァ……」
仕方なく私はスマートフォンの表面を袖で拭い、ポケットに潜らせる。
スマートフォンに写ったモノが名前の通り「『真実』を『写し取る』もの」だとすると、この景色の本来の姿が先ほど見た殺風景だということになる。つまりはこの目で見えているモノこそ虚像であり、フィクションであり、文字通り幻想であるということか。
私はもう一度スマートフォンを取り出し、アルバムフォルダを開く。
「これが現実の、この景色の本当の姿。何だか情けないな」
この世界があまりにも醜いものだからそこにフィルターをかけて、少しでもよく写そうと、思い描く理想に近づけようと、涙ぐましい加工を施しているのだろう。
「人は生まれながらにして盲目、か」
私は嘲笑し、ゆっくりと目を閉じた。
そして再び泥濘の山道に足跡を深く刻んだ。