私は生まれたときからつかれていた。子どもながらにしていきものの肉をさき、皮をはいだ。そうして一日じゅうたいようの下に立ち、さぎょうとは全くかんけいないことを考えては生つばを飲みこんだ。
私の見ているけしきは小さなじごくのようだけど、世界は広くて美しいんだとそんなことばかりを考えていた。それは見たこともないし、聞いたこともないものだったけど、そうぞうに落としこむことはかんたんだった。つかれない世界で、動かなくて良い世界で、好きなときに動くことのできる世界。そんな世界なんだろうなと私は日々ゆめに見ていた。
そしてそういうもうそうの欠片が何日かに一度、破れてない服を着た人たちによって運びこまれる。その人たちはいつもにこにこと笑っていて――
きっと私の考えているような楽しそうな世界からやってきているんだろう。その人たちはそうやって笑って私たちに色々なものをくれた。そのどれもがあざやかな色をしていてとってもかわいかった。青というこい色があることもそれで知った。
今日もあの人たちは私のけしきにやってきて、笑いながらみんなに何かをあげていた。私は自分が着ている服のすそをつかみ、家の柱のかげでそのようすをながめていた。
私の着ているこのビリビリに破れ、汚れている服も元はあの人たちからもらったものだ。
初めはかわいいピンク色をしていたこれも今では茶色く汚れきっている。
何日も着ているからとうぜんなんだけど、汚してしまったこの服をあの人たちに見せるのが何だかもうしわけなくはずかしかった。
あの人たちはあげて、私たちはもらって、それがいつもの役目だった。
あーあ。私もあげる人になりたいな。そんなことを考える。でもそれは決してだれかによろこんでほしいという理由からではない。
人に何かをあげたいという理由からではない。ただ私はあこがれていただけ。あの人たちに近づきたかっただけなのだ。
あの人たちに近づけば、あの世界に近づけると思っただけ。それだけだった。あの人たちみたいに――
気づけば私はわたしている人の一人のそでをつかんでいた。
その人は私に「どうしたの?」と笑って声をかけた。だけど私はただその人の服にさわってみたいと思っただけだったから困った。
私の服とはちがういつもきれいなその服に、さわってみたかった。服はとてもスルスルしていた。と、いっしょに私の手についてたどろのせいでよごれてしまった。
「もうしわけない」がすごかった。
何も答えない私にその人も困っているようだったけど、つとめてやさしくせっしてくれた。だから私は聞こうと思った。
いつも考えている私の知らない世界のことを。世界は広くて美しいかということを。
「あなたから見たこの世界は美しいか」
もしかしたら同じかもしれない。
あるとき、村のみんなで白いけものをしとめた。
そのけものは他のけものとちがって、とても美しい色をしていた。
こんな美しい皮をもったけものを私はそのとき初めて見て、かんどうした。だけどなかみは他のけものと同じ赤い色をしていた。同じ赤だった。
だから世界ももしかしたら赤いのかもしれない。私の見ている世界と同じ色なのかもしれない。どんな色のけものも、もしかしたら赤いのかもしれない。
私はけっきょく聞かなかった。
私はただその人の服を茶色く汚しただけだった。
だってそのしつもんの答えがどっちだったとしてもかなしくなると思ったから。
世界が汚くても、美しくても。何色でも。
私はきっとかなしくなる。
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いいの。私はそうぞうして楽しみたい。そうぞうすることを楽しみたい。そんなことを考えながら今日も真っ赤な肉をたいようの下でさいた。
ミーシャ・ドヘスの手記