脱獄ゲーム

中編/バタバタ

 

 ンー

 死刑!

 

 ・・・・・・

 

「えぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?!」

「ママァァァァァァァァァァ!!!!」

 ここはスラナー刑務所。

 

 世界で有数の刑務所である。

 

 ここにマリン、ユニア、エーンが連れてこられてしまった。

 

 三人は何らかの罪を犯し、死刑申告をされた。

 

 そこで彼らは脱獄の計画を進めることにした

・・・・・・・・・・・・

 

「何だよ、、ココ……」

 

「何コレぇー??」

 

「デカすぎない……?」

 

「フフフフ……」

 

 不気味に笑うのはミニスカートがよく似合い、身長一七〇センチメートル。

 えんじ色の長髪の横にツインテールを決め、紅い瞳、まるで悪魔の様だ。

 二十代前半の女看守、キャッツ・アイだ。

 

「聞いてねぇよ!! こんなでっけぇ刑務所」

 叫ぶ若い男。

 囚人服を着こなし、身長一八四センチメートル。髪は紺色の短髪、瞳は黄色花の様に鮮やかだ。

 看守と同じく二十代前半の、スフ・エーン。

 

「ママァァァァァァァァァァ!!!!!」

 赤ん坊の様に叫び続ける男。

 哀れだ。

 身長一七一センチメートル。

 髪は真っ赤という何とも目立ちたがりな色。

 瞳は薄い紫で幻想的だ。

 だが……性格……いや、何でもない。

 コイツの名前は、ペチ・ユニア。

 

「…………何? ココ……?」

 少し現実か疑い始めている少女。

 身長一六九センチメートル。

 髪色は黄色のショートヘヤー。

 瞳は珍しいオッドアイのピンクと青。

 この少女はまだ一七か、一八ぐらいの歳で、この四人(看守、ユニア、エーン)の中では一番年下だろう。

 少女の名前は、アクア・マリン。

 

「まぁ、気を抜いてついてこい」

 そう言い、アイ看守は目の前にある門を潜っていく。

「嫌です……!! 何ですか? この刑務所!!」

 マリンが叫ぶ。

 まぁ、そりゃあそうだろう。

 三人が見ている景色は、二十階建てのビルと同じぐらいの門、その後ろから漏れている、建物。

 普通の刑務所とはレベルが違う。

 怯えるのも無理はない。

「何をやってる? マリン? 早く足を動かせ」

 笑いを堪えながら言う看守。

「マリン……行くしか、ナイヨ……」

 震えながら声をかけるユニア。

 もう諦めよう。という何とも弱々しい声だ。

 

 俺の名前はエーン。俺は……をした罪でここ、スラナー刑務所に連れてこられてきた。

 今は、この看守、アイに刑務所を案内してもらっている。

「ここが、食堂だ。基本的にご飯はここで食う。わかったか?」

「はい……」

 

「それからここが、お前らが労働する場所だ。ここでは、いろいろな雑務をしてもらう。逆らったら罰を与える。絶対に逆らうなよ」

「はい(やりたくないな)」

 

「そして、ここがお前らの部屋だ」

「え……」

「嘘だろ」

 マリンたちがこう言言うのも仕方がない。この部屋には他の部屋と違ってベッドしかないのだから。

「なんだ? なにか文句があるのか? あるなら言ってみろ」

 

「なんで他の部屋には本や新聞があるのにこの部屋にはないんだよ! おかしいだろ!」

「そ、そーだそーだ!」

 ユニアとマリンが、異議を唱える。

 

「そりゃ、お前らが死刑人だからな。死刑人にはそれなりの対応をしないといけないからな」

「では、労働の時に迎えに来る」

 

「ねー、これからどうすんのぉ?」

「そりゃ、死刑実行まで待つしかないでしょ」

「はあ? このまま死を待てっていうの? そんなの絶対いやだね!」

 ユニアとマリンは諦めきれない。

 

「いや、でもここは絶対に普通の刑務所じゃない。マリンもわかるだろ?」

 正直、おれもこのままはいやだ。でも、この刑務所は大きいだけあってセキュリティは万全のはずだ。もう、俺達は本当に死を待つしかないのか?

 エーンは、一人、葛藤の中にいた。

 

「おい、労働の時間だ。労働場に行くぞ」

「はい……」

「お前の刑務場所はここだ。つぎ見回りに回るまでには終わらせろ」とアイはマリン、ユニア、エーンの全員に言う。

「死刑を言い渡されたあとに刑務なんて……」

薪割り場でさっきまで泣き喚いていたユニアが静かに呟いた。

 一方エーンは、木工室にいた。無駄に広いこの部屋で、ただ一人、ガン、ガンというなにかを組み立てる音のみを響かせていた。

 そして、マリンは怯えながらも、牢の前を清掃していた。あとの二人に比べると狭い場所での刑務だった。

「私は、もうどうしたら……」

 脱力したように声をあげた。

 

 はじめに刑務を終わらせたのはユニアだった。薪割り場で何度も何度も大きな声で叫ぶ。

「ママァァァ!! ママァァァァァァァ!!!!」

 声を聞き、アイが何事だと駆けつける。ユニアは精神に異常があるのではと、医務室に連行された。

 

 つぎにアイが回ってきたのはマリアのところだった。カツカツとヒールをならせながらマリアの目の前に立ち、彼女は静かに言った。

「ーーーーー」

 

 最後にアイはエーンのもとへ回った。

「刑務は終わりだ。夕食に移る。ついてきなさい」

 エーンは手錠のかかった自分の手首を静かに眺めると、目をぐっと閉じた。

 

 二人はべたべたとした体のまま、貧相な夕食をとった。

 アイは見回りの時間だと、またどこかへカツカツと歩いていった。エーンは隣の牢屋にいるマリンに話しかけた。

「アイツ、どこ行ったんだ?ほら、あのー……うるさかったやつ」

 マリンはユニアがいないことにやっと気がつき、周囲を見渡した。

「どこ行ったんでしょう……ね」

 マリンは前、アイに言われたことで頭がたくさんだった。

「ユニア。夕飯だ」

 泣き疲れ、寝ていたユニアはハッと目覚める。

「ママァァァァァァ!!!!」

 しばらく辺りを見渡したあと、目に涙が溜まって、また叫び始めた。

「うるさい、黙れ。いちいち叫ぶな」

 冷静に注意されたユニアはさらに声量をあげて喚きだす。アイに警棒で叩かれ、スンと落ち着くと、ぽつりぽつりと涙をこぼす。ユニアは塩味のきいたなまぬるく貧相な夕食を食べた。

 

 マリンは自分の牢屋のなかに紙切れがあることに気がついた。「私、今日ずっと、ここを掃除していたんです」

「ん? あぁ、きれいになっているかもな」

 予想外の回答にマリンは嬉しく思った。

「そ、そうじゃなくてですねー……えへへ」

 マリンはつい自分の言いたいことを忘れそうになった。

 

「えっとーあの! それなのに私の部屋に変な紙切れがあるんです。私は君らが外に出る方法を知っている。と書いてあって……」

 エーンは驚いた。そして自分が死刑を回避できるのではないかと胸を躍らせた。

「そのほかにはなにか書いていないのか?!」

 マリンのいる牢屋の壁に手をつける。

「えぇっと……まず、はじめに全ての刑務場所の天井を見よ。そのあと、薪割り場の下水道を見れば君らの脱獄は全てうまくいくだろう。だそうです!」

 エーンはなるほどと言ったきり座り込んでしまった。

 

 ユニアは薄く硬いベッドのうえで掛け布団を掛け寝転がっていた。

「牢屋のよりかは分厚いかもなあ……」

 涙目のせいでぼんやりとした視界のなか、医務室の天井を見つめる。ユニアは天井になにかが貼られていることに気がついた。ぼやけているが、たしかになにかがある。

 目を擦ってみると、A4ほどの紙にびっしりとなにかが書かれている。手を伸ばそうにもあと一歩のところで届かない。

「どうしよう……う、う、う……ママァァァァァ!!! ママァァァァァァァァ!!!!!」

 

「あ? なんか聞こえないか?」

 エーンは聞き覚えのあるうるさい声を聞いた。

「たしかに……ユニアじゃ……?!」

 マリンも耳を澄ました。二人はユニアになにかあったのかと廊下側に身を寄せる。カツカツと音をたて、アイがやってきた。ユニアはアイに引かれ、ぐずぐずと泣いていた。

 

「どうしたんですか……?」

 マリンはそっとアイに問いかけた。

「こいつは頭がおかしいのか? 医務室へ連れていってもずっと泣き喚いている。うるさいから罰を与えて連れて帰ってきたんだ。ちょうどいい。就寝の時間だ。明日の刑務のためにもはやく寝ろよ」

 

 マリンとエーンは納得することができた。敷布団しかない薄く硬いベッドで、眠ることはできなかった。だがせめて身体を休めようと目を閉じた。

 

「起床ー起きろー」

 アイは一つ一つの牢屋に朝食を投げ入れる。全く眠れなかった三人はむくりと起き上がり、重い瞼を擦る。

「よく眠れたか?」

 アイの問いかけに三人は口を揃えて言った。

「眠れるわけがない」

 

「ママァァァァァァ……」

 力尽きたように叫ぶのはユニアだ。黙れと言われしょげているのか、牢屋に転がっている。

 

 そしてそれを言った本人はというと、マリンと脱獄の計画を立てているようだ。

「だったらつぎの刑務場所は医務室になるだろ?」

「でも飼育部屋かもしれないじゃないですかー!」

「いやなぁ……??」

 二人は牢屋が隣同士だ。ユニアにも聞こえないような声で静かに話している。

 

「ねーえ! 二人共! なに話しているのさー?」

 声を掛けられても集中しているのか無視している。ユニアは少し不貞腐れた様子で壁にもたれた。

「今日の刑務作業はぼくが医務室なんだけどねえー」

 ユニアの呟きはエーンとマリンにもしっかりと聞こえた。

「なんでそれ知ってるの?」

 マリンはそそくさと自分とユニアの牢屋とを挟む壁へ耳を近づけた。

「えー……いやさ、ぼく昨日医務室行ってたじゃん? そーしたら看守がお前は     明日もここに居てもらう。なーんて言っててさー……」

 マリンとエーンはハアとため息をつくと、同じタイミングでなにかなかったかと聞いた。ユニアは昨日のことをそっくりそのまま話した。

「いいよ、君らと交換してあげるー」

 エーンは、俺が行くと言ったきり、モサモサとなにかを取り出した。

 

 アイがカツカツとヒールを鳴らして三人の牢屋の前にやってきた。

「では刑務場所に移送する。まずはユニア」

 ユニアはアイの方をチラリと見ると、医務室はエーンが行くとのことを大層軽く言った。

 

「あぁそうか。ではエーン。お前はこっちだ」

 エーンの牢屋を開ける音と鍵のジャラジャラとした音が響く。

「なあ俺が死刑になったわけ、聞かせてくれないか?」

 エーンはアイの紅い瞳をじっとみつめ、問いかける。

「さぁな」

 アイはフイと医務室方面を向き、エーンの手錠を引く。

 

 医務室は真っ白で、ゴミ一つ落ちていない。

 ただ広く、申し訳程度の掛け布団と硬そうなベッドが置かれているだけだった。

 掃除をし、布団を整えろと言われたものの、一つのベッドが若干乱れているだけで、あとはするところがなさそうだ。

 エーンは暇になり、ユニアに言われた通り乱れているベッドに横になった。たしかに天井になにか貼られている。ベッドに乗り、手をのばす。やっと届くと、紙をベリと剥がした。

 

 エーンはしっかりと紙を読み込んだ。一文字一文字、別の知らない国の言語で構成されている。言語があまり得意ではないエーンは紙をきれいに折り畳み、囚人服のなかにしまった。

 そのころ、マリンは飼育部屋にいた。飼育部屋は獣臭く、絶妙にじめっとしていた。

「こんなところいやだ……」

 涙目になりながらも、うさぎや羊、りんごやカカオなどの多くの動植物の世話をしていた。

 冷暖房のかかった部屋が五つほどあり、飼育されている生物がジャンル分けされているようだった。

 

「そういえば天井、なにかあるかな」

 上を向きながら刑務していると、大きな石に躓いた。

「いった……」

 石は座れと言わんばかりにきれいに磨かれていた。マリンはちょこんとそこに座ると、天井になにかあることに気がついた。     

 鍵のようなものだ。

 背伸びをしても届かず、背の高い比較的大人しい馬の背中に乗せてもらった。

「ごめんね……あとちょっとー!!」

 ガチャンと天井から鍵が落ちる。

「いたーい……」

 馬は心配そうにマリンを下ろす。

 

 そのころ、刑務所の雑務を終わらせ、エーンは部屋に戻っていた。

「あの文字は、何だろう?」

 部屋に戻ると、エーンは天井で取った紙をじっと見る。

「何か懐かしい感じがするのは、気のせいか?」

 そしてまた、次の日もまた同じ場所に、昨日と似たような紙切れがまたそこにあった。

 

 それが一週間ぐらい続いた。あれから毎日、その紙切れはどこか懐かしい感じがするのだが、書かれた内容は解けずにいた。

 

 しかし、ある日、エーンは見てしまった。その謎の紙を置き続けていていたのはアイ看守だったのである。

 

「いい加減、気づきなさいよ! エーン。私よ! 名前はここではアイと名乗っているけど、アイル。どう?思い出した?」

「えっ、アイルって……ルーちゃん!?」

「ようやく思い出したのね! 相変わらず、鈍感なんだから」

 

 実は、看守とエーンは二歳離れた昔からの幼なじみだった。アイルは幼稚園のときに、両親の不仲があって引越し、エーンと離れた。そして、エーンの記憶からアイルの存在は消えていた。覚えていなかったのだ。

 アイルはそのときからエーンのことを慕っていた。

 

「ユニア! もういいわよ。出てきなさい」

 実はユニアはこの刑務所の矯正監で、死刑囚ではなかったのである。

「ごめんなさいね。あなたとマリンちゃんの無実を今まで調べていたの。あなたがそんな罪を犯すわけないし。今ごろ、マリンちゃんが鍵を見つけて、あなたを待ってるわ。さあ、行きましょう!」